鰻丼がつむぐ職場のチームワーク

土用の丑の日が近づくと、同僚達と並んで食べた鰻丼のことを思い出します。当時、働いていた職場は、人間関係が悪くはないものの、打ち解けて話すような雰囲気がありませんでした。先輩社員には仕事の要件を気を使いながら話すだけ。同年代の同僚もおり、何度かランチなども出掛けましたが、お互い好き嫌いが多く、お店を探すのが面倒になり「職場は仕事だけ」と割り切って考えるようになっていました。そんな中、ある年の土用の丑の日に、先輩社員の一人が終業時間間際に「鰻を食べに行こうよ」と言い出しました。それは突然で、予定もしていなければ、予約もしていませんでした。けれど「鰻」の言葉に、皆吸い寄せられるように、部署の役付き社員を除いて、全員出席。車2台に乗り込み、鰻屋へ。案の定、店の前には長い行列ができていました。田舎町のため、飲食店の閉店時間が早く、行列というのも、それまで見たことがありませんでした。

 

 

そのため、売り切れや、閉店を心配しつつジリジリと並んで待ちました。その後、やっと自分たちの番が来て、入店できました。店内はすごい混みようでした。私達は二間続きの和室の、柱を挟んでテーブルを二つ合わせたような奇妙な席に案内されました。特別に間に合わせで作った席だったのだと思います。

 

 

メニューを見ても、ほとんど売り切れで、選ぶこともなく、全員、鰻丼を注文しました。しばらくして、テーブルに鰻丼が運ばれて来ました。当時、若かったこともあり、鰻屋も、鰻丼も初めてでした。どんぶりに盛られたご飯の上に、照りのある鰻のかば焼きがぎっしり乗っていて感動でした。食べ始めると、誰も喋らず、皆一心不乱に鰻丼を食べました。食べすすめると、ご飯の下に、また鰻のかば焼きが出てきました。私は大変驚きましたが、他の人は驚いていなかったので、鰻丼とは、そういう物なのか、または、この地域か、その店の特別なのか、いまだにわかりません。完食したあとは、誰がおごるということもなく、おのおの支払って帰りました。

 

十年以上前のことで、値段ははっきり覚えていませんが、2000円くらいだったと思います。私が職場にいる間、有志が集って食事に行くというようなことは、その時一度限りでした。ですが、売り切れるかどうかの瀬戸際を一緒に乗り越えたからか、あるいは、心ひとつに鰻丼を完食したからか、理由はわかりませんが、その時以来、それまであった、職場での見えない壁のような物が消え、妙な信頼関係が生まれました。仕事でもチームワークが良くなり、仕事の効率も上がったのです。近年は、鰻の価格が高騰し、自宅での鰻丼は、年々ご飯が占める割合が増えていますが、土用の丑の日が近付くと、職場の同僚達と並んで食べた、
鰻丼を、思い出します。

 

 

 

TOPへ