鰻をデパートで食べた思い出

姿は様々でもウナギを食する幸せは全国共通

 

両親が関東の人間ということもあり、家庭を持つまでウナギ料理といえば、うな重しか知りませんでした。
いわゆるお重の中に丁寧に敷き詰められた熱々の白いご飯の上に褐色のかば焼きが乗っているもので、家で食べるというよりは、デパートや老舗の専門店で頂くごちそうです。

 

粋な仲居さんに出された熱いお茶をすすりながら、甘辛く香ばしい香りに包まれ、やっと待ちわびた後に重箱を目前に置かれた時の喜びは、今も鮮明な記憶としてよみがえります。

 

黒塗りだったり、使い込まれて装飾の金が剥げかかっていたりとお店によってまちまちですが、特上から並みまで或いは松竹梅といったランク(値段)による量や質の違いが、入れ物にも反映されているのが合理的だな、と毎回思います。
恐る恐るお重の蓋を開け、独特の香ばしい香りが少しコクのある香りに変化して湯気と共に自分目がけて飛び込んでくる瞬間は、究極の至福の時です。
その後は夢中に熱さと食欲と闘って箸を進めていくのですが、蒲焼になったウナギを、ほぐすことなくご飯と一緒にすくって食べられるのは、全国共通ではなかったということを後に知ることとなります。

 

夫の転勤で関西に住みしばらく経った頃でした。
乳飲み子もいて、家族で外食できない私を気遣って、母が関西の老舗デパートで買ってきたウナギのかば焼きを持って遊びに来てくれました。

 

母が意味深な笑みを浮かべながら包みを開け、私の目に飛び込んできたものは、甘辛く煮付けた様な頭のついた赤褐色のウナギでした。
その様はサンマの開きを蒲焼にしたもののようで、弾力のある歯ごたえは私の今までのウナギ観を覆し、同じ生き物がこうも違う料理をされるものなのかと感心しつつ親子で大笑い、育児ノイローゼも吹っ飛んでしまいました。

 

泳いでいるウナギの姿を連想しやすいこの姿は、ある意味ウナギ料理の基本形なのかもしれません。
横で不思議そうに私たちを見ていた我が子もはしゃぎ出し、こんな形でウナギに幸せな気持ちにしてもらえるとは、意外なウナギの効能に感謝感激です。
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